2016年10月12日

映画『聲の形』は目をそむけたくなるが決して目をそむけてはいけない作品

映画が話題になっている『聲の形』。大今良時による原作を京都アニメーション制作のもと、山田尚子監督により映画化された。

映画「聲の形」を見てみて…

もともと原作を読んでいてこの作品については知っていた。「いじめ」をテーマに置いていることもあり、読んでいて胸が苦しく辛くなるのは否めない。でもそれは、それくらいに描かれている内容があまりにリアリティのあることを意味している。

この難しいテーマを扱った作品を映像化するということにはかなりの興味がそそられた。
山田尚子監督の作品らしさが全開に出ていて、映像はアニメに慣れてない人でもすっと入っていける柔らかいタッチで表現されている。音楽にもこだわりは感じ、場面場面に適した心に沁み入るサウンドが映像とともに印象に残る。

先にも書いたが、この作品はいじめを生々しく表現している。刺激を求める小学生がふとやってきた転校生、しかも耳が聞こえないというひとりの少女に興味を持つことから始まる。興味、好きという気持ちは素直に表すことができないのは子どもに特有の現象だ。
誰しも似たような経験はしたはずであると思う。そのいじめの首謀者たる主人公は、目には目をといった応報を受け、今度は自分が孤独に苛まれることを味わう。決してそうした経験がそうさせたわけではないだろうが、主人公の少年は高校生になり、再び当時いじめていた女の子と向き合うことを決意する。もう一度、友達としてやり直そうとする。

友達とは、強い絆で結ばれているようでいて儚く脆い。誰もが自分を一番に考えてしまう。それは必ずしも悪いことではないだろう。ときに偽善者めいたものが非難されることもある。ここで描かれる登場人物たちは、映画を見ている人と必ず一致するキャラクターが出て来る。いじめる人、いじめに加担する人、直接加担しなくとも遠巻きに関わっている人、止めているつもりで傍観する偽善者、見て見ぬふりをする人、いじめと徹底的に闘う人、必ず見ているあなたがそこにはいる。

人と人の繋がりを表現した作品は多い。たとえ「いじめ」を扱っていようとも、この作品もまた人と人の距離感のあり方を問うものだと思う。

この作品は本当に見ているのが苦しくて目をそむけたくなる。でもそむけてはいけない。見て、感じて、様々なことを考えるべきだと思う。
「いじめ」は誰しも悪いことだと認めていても、いざ解決に向かう行動を取ることは非常に繊細で難しい。中途半端に偽善者めいた言葉や行動を取るくらいなら、この映画『聲の形』をしっかりと見てほしい。

何を思うも自由だが、そこに感じるものは必ずあると思う。

内容は確かにきつい。けれども、音楽と映像には十分酔いしれるほどのクオリティがあり、それだけでも見る価値はある。もちろん伝えたいテーマを映像と音楽がより際立たせている点もあり、その強弱はあるものの、見た後には苦しかった胸が今までに感じたこともない状態にあると思う。決して見終えてすっきりとはいかないだろう。
それでも、見て良かったと心から思える作品には違いない。原作から入るにはハードルが高くとも、映画であれば気軽に見れる。気軽に見れる内容でもないことは確かだが、ぜひ時間を割いてあらゆる人に見てもらいたい作品である。

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