2016年10月12日

奥田英朗の真骨頂、『最悪』がおもしろい!

奥田英朗の隠れた名作『最悪』の魅力を語る。

不運続きの三人がおりなす群像劇

友人に、「お勧めの小説を教えて」と言われたら、真っ先にあげるのが、奥田英朗の『最悪』という小説だ。
これは、99年に講談社から出版された奥田英朗の初期の作品で、2000年に宝島社「このミステリーがすごい」で7位にも選ばれているが、『空中ブランコ』や『邪魔』『オリンピックの身代金』などと比べれば、知名度は劣る。しかし、この小説でこそ奥田英朗の真骨頂を見てとることができると僕は思う。

物語は、破産寸前の鉄工所の社長である川谷信次郎と、気の弱い銀行員の藤崎みどり、昼間からパチンコ三昧のチンピラ野村和也という、3人の群像劇として進む。この3者は全く関係のない人生を歩んできたのだが、ある事件に巻き込まれる中でお互いの人生を知ることになり、気付くのだ。「最悪なのは、自分だけではなかった!」と。

物語を説明してしまえば、なんとも陳腐な話なのだけど、物語の9割を3人の不運な人生の描写にさくことで、クライマックスでの爽快感を見事に生み出している。いやはやさすが奥田英朗だ。

日常こそが最も面白い

「非日常」を追体験できることは、僕が小説を読む大きな動機の一つだ。自分が体験できないことを、物語の中で体験し満足感を得る。だから、僕はSFが大好きだった。

しかし、この錯覚を起こすためには、物語がどこかで普段の「日常」とリンクしていることが必要となる。『源氏物語』を読むためには、平安時代の背景知識が必要なのはそのためだ。
『最悪』は奥田英朗の小説の中では、起こる「非日常」が最も平凡な部類に入る。そこでは、オリンピックを破壊する恐ろしいテロリスト(『オリンピックの身代金』)や、リゾート計画に反対する沖縄の英雄(『サウスバウンド』)などは出てこない。不運続きの3人の人生が、詳細に描かれてるに過ぎない。

だからこそ、改めて小説のおもしろさを気付かせてくれるのだ。なるほど、小説内でおこる「非日常」の華やかさではなく、自らの「日常」とのリンクに小説のおもしろさがあったのかと。

奥田英朗の魅力

奥田英朗の小説を読めば、ストーリー内で起こる事件というよりもむしろ、そこに巻き込まれてしまうキャラクターに共感してしまう。
都会に住むものたちのさまざまな悩みを解決していく精神科医伊良部一郎の物語『空中ブランコ』においても、読者が引き込まれてしまうのは伊良部一郎のキャラクターでも、奇想天外な「治療」方法でもない。そこに相談にくる雑技団員ややくざ、モデルなどといった都会のキワモノたちが、実はコンプレックスの塊でしかないと明らかにされることで、読者は「安心」するのだ。
この「安心」こそが、奥田英朗の小説の一番の魅力だと思う。

『最悪』に出てくる3人のキャラクターは、全く不運続きな人生を送っている。彼らの不幸は、自らが全くの小市民であることに由来し、それが劇中に代わったわけでもない。にもかかわらず、その3人が同じ事件に巻き込まれた瞬間、最悪だった「日常」が「非日常」を制圧し、すさまじい爽快感と「安心」感に転じるのである。これこそが、『最悪』という小説のおもしろさなのだ。

小説のおもしろさを再確認させてくれた、奥田英朗の『最悪』。まだ読まれていない方は、一読することを自信をもってお勧めしたい。

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