ニコニコ生放送が高画質と延長無料の「新配信(β)」を提供開始。競合サービスとの優位性は?
ニコニコを運営するドワンゴが2016年11月1日から、ニコニコ生放送の最新機能「新配信(β)」の機能を提供を開始しました。
ニコニコ生放送は国内では先駆けて生配信サービスを展開し、ニコニコ動画のユーザー数をバックに日本最大の生配信サービスとなりましたが、近年はYouTubeライブやTwitchといった海外サービスをはじめ、国内のTwitCasting、OPENRECといったサービスにもユーザーを奪われるなど厳しい展開となっていました。
果たしてこの「新配信(β)」が起死回生の一手となるのか、競合サービスとの比較を交えて考察していきます。
新配信(β)の概要
ニコニコ生放送はプレミアム会員のユーザーが自由に生配信を行えるサービスで、それ意外にもプロ野球やアニメなどの権利元の組織が配信を行う公式配信も行われてきました。
近年は競合サービスが高画質化や配信者への金銭面な見返りなど様々な機能を提供している中、ニコニコ生放送は大きな機能変更もなく、画質も据え置きだったことから、ニコニコ生放送=低画質というイメージがついてしまいました。
新配信(β)は高画質化を最もウリとしていますが、その他にもいくつかの機能があり、このようになっています。
- 最大ビットレートが1Mbbsに
- 1番組あたりの上限席数が撤廃
- 放送時間が1枠延長無料に
- その他、使用頻度の低いサービスの停止
それぞれ一つずつ競合サービスとの状況を比較しながら紹介していきます。
最大ビットレートが1Mbbsに
ビットレートとは、生配信者がニコニコ生放送に映像や音声のデータを送る時の「1秒あたりのデータ容量」のことを意味します。新配信(β)ではこれまで上限が384kbbsだったものが、1Mbbsに緩和されたことで、より多くのデータをサーバーに送ることができるようになりました。
これは何を意味するのかというと、ビットレートが高いような高画質かつ滑らかな映像を配信できるようになったということです。
しかし競合サービスを見てみると、ゲーム配信の最大手であるTwitchの最大ビットレートは3.5Mbbs、国内の配信サービスであるOPENRECの推奨ビットレートも2Mbbs以上となっており、1Mbbsは依然として低い値に留まっています。
余談ですが、ニコニコ動画も他の動画サイトと比べると画質が低いという問題があり、一定時間以上のものはHD画質にすらできないことが近年問題視されています。
また今年に動画投稿容量の上限が緩和されたことで、より高画質になるものかと期待されていましたが、実際にはニコニコ動画側で再エンコードされてしまうために、かえって画質が劣化するということが相次いでいたりと、高画質化にはかなり苦労しているようです。
1番組あたりの上限席数が撤廃
これまで1番組あたりの上限席数が1000~5000に設定されていたものが撤廃されました。
ニコニコ生放送には独自のシステムとして「追い出し」というものがあり、これは混雑している部屋ではプレミアム会員が優先的に視聴できる一方で、一般会員は部屋から追い出されて視聴できなくなってしまうというものです。
これは当初サーバー負荷の問題から作られたシステムのようですが、競合サービスではこの機能を導入しているものはなく、多くは会員登録すら不要で全員が視聴できます。
ニコニコ生放送でもこれがようやく撤廃されたのかと思いきや、実は一般会員の追い出し機能はそのままとのことです。追い出しがあることによってプレミアム会員になり、サービスの収益性は向上しますが、ユーザーの利便性からすると不満が上がっているのも事実です。
放送時間が1枠延長無料に
ニコニコ生放送はこれまた独自のシステムとして30分おきに「枠」を確保することで、配信者は30分間放送できるのですが、それが終了すると新たに「枠」を取り直さなければなりません。
通常の配信サイトでは同じURL内でずっと配信できるのですが、ニコニコ生放送の枠というシステムでは新しいURLが付与されるため、視聴者も新しい枠に移動しなければならないという問題がありました。
1枠延長無料になったことで事実上、枠が60分になりましたが、ユーザーが移動しなければならないという問題は依然として存在しており、抜本的な解決になるのかは疑問です。
その他、使用頻度の低いサービスの停止
これまであまり使用されてこなかった多くの機能が停止されています。
ただしこれらはPC版でのみ提供されていたものば多く、スマホアプリでは利用できなかったため大きな影響はないでしょう。
停止された機能は以下のものです。
- ウォール機能
- 視聴時の座席番号
- コメント表示位置指定機能
- スタンプ発行
新配信(β)の問題点
このように新配信(β)ではこれまでの問題がいくらか緩和される改善となっていますが、一つ大きな問題があり、この機能を使用できるのは現在のところ同時に100枠までとなっています。
ニコニコ生放送の最大の枠数は5000枠となっており、盛況時には3000枠を超えることもあるため、100枠というのはかなり少なく、実際に利用できなくて使用を断念しているユーザーが多く見られています。
これはサーバー負荷の問題なのか、それともβテストとして動作を検証するものなのかはわかっていません。
枠数はおそらく徐々に増えていくとは思いますが、100枠では配信者も視聴者もあまり新配信の良さを実感できない可能性が高いです。
ニコニコ生放送の苦境
冒頭にも言ったとおり、ニコニコ生放送はユーザー数自体はさほど変化はありませんが、スマホユーザーを中心に増え続けるインターネット人口の中で横ばいということは、競合サービスにシェアを奪われ続けているということでもあります。
生配信の数でいえば国内サービスで見ても、ツイキャスのほうが何倍も多くなっており、ゲーム配信もOPENRECが急激に成長しているという状況になっています。
また海外サービスのYouTubeライブやTwitchはグローバルな規模ではもちろん、有力配信者は金銭的な報酬を得られることから、こちらで配信することが多くなっています。
ニコニコ生放送は生配信という分野自体が未開拓のときに大きなシェアを獲得したものの、それ以降は競合サービスとの優位性を示せず苦境に立たされています。
今後、新配信(β)を皮切りに存在感を取り戻すことはできるのでしょうか。
実際に利用してみた
開放されてから1週間が経過し、それなりに材料が揃ってきたので、それについて書いていきます。
画質はさほど向上していない
そもそも高画質というのは、元の映像ソースに対してあまり情報を圧縮しないことで、劣化を食い止めることで実現されます。ですからいかに圧縮技術が発達したとしても、基本的には「情報量が多い映像=高画質」ということには変わりありません。
新配信(β)はこれまでよりも最大ビットレートが増えたと言っても、競合サービスよりは依然として大分低いものとなっており、実際に新配信(β)の映像を見ても、目に見えて改善されたと感じるほどではありませんでした。
もちろん動きの多いゲームの映像などはまだ見られる程度には改善されていますが、他のサービスも利用している人にとってはまだまだ不満が残るかもしれません。
UIが刷新されている
まず目についたのが、UIが維新されていて、動画プレイヤー以外も先進的なデザインになっていることです。ニコニコ生放送は全体的にレガシーになっていたので、これは嬉しい改善ポイントですね。
ニコニコ動画のHTML5対応の新プレイヤーでもそうですが、デザイン面の全面的な刷新を行っていることが伺えるものでした。もしかしたら動画ページ以外も今後UIが改善されるかもしれませんね。
YouTubeライブやOPENRECのような新しいサービスでは先進的で使いやすいデザインになっているので、ニコ生のデザイン改善は最も驚きでした。
HTML5対応はなし
2010年にアップルがFlashの対応を停止してから、ブラウザの世界でも脱Flashが進んできており、Flash依存の高かった動画プレイヤーも今ではHTML5がスタンダードになっています。
歴史あるTwitchも既にHTML5に台頭していますし、国内の競合サービスであるOPENRECもHTML5プレイヤーとなっています。
もともとアップルがFlashに対応しなかったのは、Flashの動作が重くて不意に停止してしまうことが多いからだと言われています。
実際にHTML5に対応しているサイトはニコ生よりも随分軽快に動作していますし、個人的にはHTML5化は早く実現してほしかったのですが、なかなか技術的に難しいところがあったのかもしれません。
抜本的な改善ではない
総じて感じたこととしては、新配信(β)はニコ生のユーザー体験をガラリと変えて競合優位性を獲得するほどの変化ではなく、これまでの問題点をいくつかクリアするための一つの改善であるように感じます。
ニコニコは今時では珍しくクラウドベースではなく、自社でサーバーを抱えて運用するオンプレミス方式なので、なかなかドラスティックに配信環境を変えるというのが難しいのかもしれません。
例えばビットレートを大幅に上げようと思った場合、クラウドならばプログラムの調整だけで、何千台という規模を速やかに稼働させられますが、自社でサーバーを抱える場合は、サーバを設置するスペースを確保しなくてはなりませんし、場合によってはビルごと移動する必要があります。
ですから1Mbbsで、100枠のみという限定的な対応になっているのかもしれないと感じました。
またニコ生はアンケート機能やニコニ広告などユニークな機能を多数保持しているため、それらとの互換性を維持しようとすると動きが遅くなってしまうのかもしれません。
実際に開発の現場がどのようになっているのかは外部からはわかりませんが、競争が激化している動画配信の領域においてはやはり動きの遅さが露呈しています。