2016年10月28日

元気が欲しい時や落ち込んだ時に「ヒカルの碁」を読むのがおすすめな理由

「ヒカルの碁」は週刊少年ジャンプで1999年~2003年にかけて連載された作品で、テレビアニメ化を始め、日本に囲碁ブームをもたらすなど大変な人気を誇りました。
そんなヒカルの碁の魅力は主人公のヒカルがプロとして活躍していくというストーリーだけでなく、ヒカルの成長と読者である自分自身を重ね合わせることでより大きくなるのではないでしょうか。

今となってはもう10年以上前の作品になってしまいましたが、かつて週刊少年ジャンプで連載され、大ヒットした囲碁漫画「ヒカルの碁」という作品がありました。
主人公の進藤ヒカルの意識の中に平安の天才棋士・藤原佐為が入り込み、ヒカルが囲碁を通じて様々な成長を遂げていく作品なのですが、この作品は囲碁というマニアックなテーマながら老若男女問わずヒットしました。

中でもこれまで囲碁をやったことがないけれど、ヒカルの碁を見て囲碁を始めた人がたくさん出たことで、マスメディアなどでも広く取り上げられました。日本だけでなく韓国や台湾などでもヒットし、実際にアジア圏ではヒカルの碁を見て囲碁を初めてプロになった棋士は少なくありません。

私も小学生の時に初めてヒカルの碁を見て、中学生の時から囲碁をはじめました。プロを目指したりといったことはありませんでしたが、意外と長続きしていて、今でも休日暇があれば囲碁を打つことがあります。
囲碁というのはなかなか難しいもので、一定以上上手くなるとなかなか目に見えて上達することがなくなってしまい、自分との勝負に負けることばかりなのですが、その度にヒカルの碁を読んではまたやる気になります。

もちろん囲碁に対してだけではなく、自分にとって大事なことが控えていて、それに向けてテンションを上げたいときだったり、嫌なことがあって落ち込んだ時にも、よくヒカルの碁を引っ張り出して読み返しています。

ヒカルの碁はストーリーとして単に面白いだけでなく、人々を前向きにさせてくれる不思議な魅力があるのです。その魅力をお伝えすることで、ヒカルの碁がおすすめすべき名作であることが理解していただければ幸いです。

なおこの記事にはネタバレが大きく含まれています。
これから作品を読もうと思っている方、まだ読んでないけれど核心的な部分は知りたくない方は、申し訳ございませんが、他の記事を読んで頂けると幸いです。

ヒカルの碁のあらすじ

ヒカルの碁の主人公は「進藤ヒカル」という少年で連載開始時は小学6年生です。体育は得意だけど勉強はからっきしという少年で、テストで悪い点を取ってお小遣いをなしにされてしまったことから、おじいちゃんの家の蔵にあるものを勝手に売ってお小遣いにしようと企みます。

そんな時、古い碁盤を見つけると、幼馴染の藤崎あかりには見えないけれど、ヒカルにだけ見える血の跡が碁盤に見えました。そしてヒカルの意識の中に幽霊の声が聞こえ、ヒカルが不審がっていると、その幽霊がヒカルの意識の中に入り込みます。
その幽霊は平安の天才棋士である藤原佐為でした。藤原佐為は平安時代にとあることから濡れ衣を着せられてしまい、自害してしまったものの、神の一手を極めていないという未練が残り、幽霊として現代に帰ってきたのです。

佐為はヒカルにしか見えず、会話もヒカルの意識の中でしか行うことができません。当初ヒカルは囲碁をやる気はありませんでしたが、佐為があの手この手でヒカルを強引に囲碁の世界に引きずり込もうとしていた時に、ある碁会所でヒカルと同年代の少年を見つけます。

その少年こそヒカルの終生のライバルとなる塔矢アキラでした。ヒカルは佐為の言うままにアキラと対局をすると、そのまま勝利します。しかし傍からみれば初心者で手つきのおぼつかないヒカルがアキラに勝つなんておかしいと騒がれ、アキラはヒカルに固執するようになります。

その後、ヒカルはアキラの囲碁に対する情熱を知ったり、佐為に言われるがまま行動していった結果、どんどん囲碁にハマり始めます。ヒカルは囲碁を始めてから周囲が驚くスピードで成長し、中学の部活動でも優勝を狙えるくらいの実力を身に着けます。

そのときはまだ趣味の延長でしかなく、プロになろうなんて考えていませんでした。そんな時にライバルであるアキラが既にプロになったことを知ったヒカルは、まだまだ自分の考えが甘かったことを悟り、本気でプロを目指すようになります。
しかしそれは自分が中心となっていた部活動での活動をやめるということであり、無理やり巻き込んでしまった部員と衝突し、絶交状態になってしまいながらも、それでもプロになるという決意を固めて囲碁の世界に身を投じていきます。

ヒカルは囲碁と共に人間的に成長していく

あらすじを見ていただければ分かるように、連載開始時のヒカルはどこにでもいるヤンチャな少年で、むしろ実年齢よりも幼さが目立つ少年でした。それもヤンチャな印象はしばらく続いていくことになります。

そんなヒカルですが、連載から3年ほど経過した頃には全く見違えるほど精神的に成熟していきます。そしてそれは単に囲碁が上手くなるとともに自動的に成長していくのではなく、自分自身の情けなさを痛感するような挫折を乗り越えるたびに成長していきます。

そのポイントは大きく分けて3つあります。

囲碁を始めるまで

ヒカルは佐為と出会ってからもしばらくは先入観にまみれていて、囲碁を老人のやるものなどと捉えていて、囲碁を始めるつもりはありませんでした。また、佐為が強引にヒカルに囲碁を打たせようとしても、嫌々やっていて、とても長続きしそうではありませんでした。

そんなヒカルが変わるキッカケになったのは塔矢アキラとの出会いでしょう。
ヒカルは当初アキラが強いということを知らず、単なる一人の少年だと思っていましたが、アキラの眼光や迫力から只者ではないことを察していました。

一戦目は佐為が手を抜いたことでほぼ互角だったものの、二戦目は佐為がコテンパンにしてしまったことで、アキラは人生で初めて挫折しながらも、それでもヒカルを倒そうと何度でも勝負を挑んできます。
その時、ヒカルは初めて自分自身の小ささを悟り、アキラをここまで駆り立てる囲碁の世界に興味を持ち始めます。

ダサくて退屈なものだと思っていた囲碁を自発的にやりたいと思うまでには、ヒカル自身に内面の葛藤があり、それを払拭することでヒカルは一段回成長します。

プロを目指すまで

ヒカルは囲碁を始めてから、凄まじい成長曲線を描き、あっという間に同年代の部活動ではほとんど勝てる人はないくらいに成長します。しかしそれはヒカルの才能と佐為の指導があったことで、あまり苦しい思いをせず、すんなりと成長した結果でした。

それまでにヒカルは一度だけ自分自身の力でアキラと対局していましたが、佐為のことを知らないアキラにとってはヒカルの本来の実力はふざけているようにしか見えず、「ふざけるな」と激高されていまいました。
それ自体も大きな衝撃ではあったのですが、この時ヒカルはアキラとの大きな壁には気づかず、これまで通り楽しみながら囲碁を打っていればいずれ追いつくだろうと楽観視していました。

しかしそんな時に、アキラが通っている中学の囲碁部の元主将と囲碁を打つ機会があり、ヒカルの実力自体は評価されるものの、アキラとの囲碁に対する決定的な情熱の差を指摘され、なぜアキラがヒカルに固執しているのかわからないと言われてしまいます。
アキラはこの時既にプロになっており、いずれ追いつくだろうと楽観視していたヒカルは自分の認識がなんと甘かったのかと気付かされます。

そしてヒカルは初めてプロを意識して、プロ養成所である院生の受験を決めますが、院生はアマチュアの大会に出場してはならず、つまり部活動をやめなければならなくなります。
もともと部活には三谷を強引に引っ張ってきて、優勝を一丸となって目指していただけに、三谷に激怒され、ヒカルは部活に戻ってこれなくなります。幼馴染のあかりにさえ「来ないで」と言われる始末です。

この時にヒカルにとって囲碁は楽しいという以上の大きな重責になったのではないでしょうか。
おそらくあのままヒカルは部活を続けていれば優勝できたでしょうし、部活の仲間たちと楽しい学園生活を遅れていたでしょう。

しかしプロを目指すということはそれを捨てることであり、またプロになることも叶うかわかりません。それでもなお塔矢アキラを目標にプロを目指すと決心したことで、本当の意味で棋士になる第一歩を歩み始めます。
それ以来、ヒカルはあらゆることを犠牲にして囲碁だけに没頭するようになりました。

佐為との別れ

プロになるにはプロ試験で上位3人に入らなければならない狭き門でしたが、ヒカルは対局の度に成長していき、院生になってから1年と経たずにプロになります。
その間にも伸び悩んだ期間、大人との対局への不慣れなどを見せましたが、それも素早く克服したことで、もしかしたら大きな挫折というのはなかったのかもしれません。

プロになってからもまだそそっかしい部分は残っており、顔つきも幼さが目立ちます。
それでも棋力はプロになった段階で、既に高段者である倉田や緒方にも認められるほど既に頭一つ抜けていました。

余りにもトントン拍子で進んでいくので、この辺りが一番読んでいて気持ちもテンポも良い時期だったかもしれません。ただ幸せな時間は長くは続きませんでした。

ヒカルに憑いていた佐為は、現代の名人である塔矢行洋とインターネットでの対局(佐為は他人からは見えないため、インターネット越しにヒカルが塔矢行洋との対局をこぎつけることで実現)を行い、そこで勝利したことから神の一手を極めるという佐為の悲願は達成されていました。(まだ終わっていないという補足はありましたが)

それから佐為は役割を終えて現世を去ることを悟ったかのように元気をなくしていきますが、ヒカルはそれに気付かず佐為は永遠にいるものだと最後まで思っていました。
しかし鯉のぼり舞う子供の日に、佐為はヒカルの元を去ってしまいます。

ヒカルは佐為が勝手に何処かに行ってしまったものと思って、至る所を探しますが見つかりませんでした。しかし旅先の帰りによったある場所で、佐為はもうこの世から消えてしまったのだと気づきます。

ヒカルにとっていることが当たり前で、囲碁の世界に誘い、成長させてくれた佐為の消失はあまりにも衝撃的で、ヒカルの碁シリーズを通してもクライマックスと言える展開だったのではないでしょうか。
その後、ヒカルは自責の念に駆られて囲碁を打つことをやめてしまい、プロの対局も無断で欠席し続けます。

魂が抜けたようになってしまったヒカルはただ呆然と毎日を過ごしていましたが、ある日、プロテストに落ち続けても諦めず、中国へ留学して帰ってきたかつての盟友の伊角さんと対局することになります。それは伊角さんとはかつて遺恨の残る終わり方をしていたから、最後のお情けとして始めただけに過ぎませんでした。

しかし対局していくうちに、ヒカルは自分の囲碁の中に佐為が宿っていることを知り、自分が囲碁を打つことが佐為への報いだとして復帰することを決意します。

佐為がいなくなってから、ヒカルが復帰するまでは実は2巻にも満たないくらいの期間だったのですが、余りにも喪失感が大きく、読者にとっても長く辛い時期だったと思います。
それでも過去最大の苦難を乗り越えたヒカルは、これまでの幼さは全くなりを潜め、むしろ年齢よりも大人びて見えるようになりました。

ヒカルの成長が手放しに喜べなくなる

このように挫折を乗り越えるたびに、精神的に大きく成長していくヒカルですが、個人的には佐為消失以降のヒカルはどこかすきになれないというのが率直な感想です。

それまでの成長は年相応に追いついたり、囲碁への取り組みへの意識をあげたりと、割りと手放しで応援したくなるような成長ばかりだったのですが、佐為がいなくなったあとのヒカルははどこか悟ったようになり、感情を自分の中で押し殺す様になったのが印象的です。

これ以降のヒカルは喜怒哀楽をあまり表現せず、囲碁を打つことを宿命付けられてしまったかのように感じられます。それまでのヒカルは囲碁は強いけれど、どこか弱々しさやお調子者の一面があったのですが、佐為の消失を乗り越えてからは、そういった一面は完全になくなってしまいました。

また佐為というファンタジーな存在を書いてしまったヒカルの碁は、「リアリティーのある囲碁漫画」になってしまい、心躍るような展開がなくなってしまいました。
事実、ファンの中でも佐為消失以前と以後とでは全く評価が異なっています。

時間とともに印象が変わる

実は私もリアルタイムで読んでいる時期や、学生だった頃はヒカルの碁の後半は好きではなく、第1部が終わる17感までしか読まないことが多かったように思えます。第2部は素晴らしいヒカルの碁という漫画を陰らせてしまった存在だとすら思っていました。

ただ今では通して読むと、それはそれで感慨深いものがあるということで、第2部も好きになっています。
おそらくそれは自分の実年齢と関わっているような気がします。

私は子供の頃からあんまり人生が楽しくないと思っていて、大人になれば好きなゲームも帰るし、やりたいことも自由にできると思っていて、早く大人になりたいと思っていました。
ただ大半の人がそうであるように、大人になるとむしろ子供の頃の無邪気な時代に戻りたいと思うものです。

ポケットモンスターのエンディングテーマの「ポケットにファンタジー」という曲もそんな、大人になりたい子供と子供になりたい大人を歌っていたのを思い出します。

自分にとっては学生時代までは年齢を重ねる度にどんどんできることが増えていって楽しくなっていったのですが、社会人になってからはどこかいつも手放しで楽しめない心のつっかえができてしまい、学生に戻りたいと思うこともしばしばです。

何だかその感覚が、ヒカルの碁におけるヒカルの成長とも似ているような気がします。最初のヒカルは等身大で、成長していくのが嬉しくもあったのですが、佐為がいなくなってからは以後を打つことを運命づけられているようにさえ見えてしまうのです。

もしかしたらヒカル自身も昔に戻りたいと思う時間があるのかもしれません。第1部でも佐為がいる夢をみているくらいですから。それでも、そんな弱音は吐くことなく、囲碁に全力を捧げるヒカルを見ると、自分がなんとみみっちいのかとその度に思い、現実に向き合う勇気をもらえます。

間近に控えた出来事に対して勇気がほしいときだったり、落ち込んで昔に戻りたいなんて思う時に、今でもヒカルの碁を見返していますし、その度にまた違った感情が芽生えてきます。

自分にとってヒカルの碁という作品は単に面白いと言う以上に、人生の縮図でありコンパスのようにも感じられる作品で、まだ読んだことがない方がいればぜひ読んで欲しいと思って描かせて頂きました。

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