2016年10月30日

ジャンプの巻末で話題の磯部磯兵衛物語がシュール過ぎて面白い!

日本を代表する漫画雑誌である週刊少年ジャンプには巻末にギャグ漫画が固定で掲載されています。
最も長く連載されていた巻末漫画で有名なのは「ピューと吹く!ジャガー」で、2000年~2010年まで10年間に渡って掲載されていました。

私は90年代後半からジャンプを読み始めたので、当時は「ピューと吹く!ジャガー」が元祖かと思っていたのですが、本当の元祖は「王様はロバ〜はったり帝国の逆襲〜」という漫画で1994年~1996年にかけて掲載されていました。

そして今回紹介する「磯部磯兵衛物語〜浮世はつらいよ〜 」も、そんな巻末ギャグ漫画の系譜を引くシュールなギャグ漫画です。

巻末ギャグ漫画という役割

週刊少年ジャンプでは常時約20本の連載作品が掲載されていますが、その特徴として様々なジャンルの漫画を扱っているということです。

有名な仕組みとして「アンケートシステム」というものがあり、ジャンプでは読者アンケートによる人気投票による結果をダイレクトに掲載順に反映し、掲載順が後ろに来た漫画は容赦なく打ち切りにされてしまいます。
基本的にはこのアンケート結果に応じて打ち切りが決まりますが、それとは別に漫画のジャンルによる枠がいくつか設けられています。

例えばONE PIECEのような王道の冒険バトル漫画、ハイキュー!!のようなスポーツ漫画、ゆらぎ荘の幽奈さんのようなラブコメ漫画といってように、20本の連載作品が極端にどこかのジャンルに偏らないような配置になっています。
もちろん、それらは常に守られているわけではなく、アンケートの結果が悪ければたちまち打ち切り候補になってしまいます。

そんな状況からすると巻末のギャグ漫画は特殊で、新聞の四コマ漫画のような扱いになっており、基本的にアンケートの結果に左右されずに巻末という枠がかなり安泰となっています。
実際には極端にアンケートが悪ければ打ち切りの対象になるのでしょうが、これまでの作品はやはり短期打ち切りになっておらず、作者は割りと自由に書いている印象があります。

そして共通しているのが、普通にギャグ漫画ではなく、シュール系のギャグ漫画で、登場人物が大体ぶっ飛んでいることです。また、ページ数も通常は19ページですが、巻末ギャグ漫画は「磯部磯兵衛物語」が11ページ、「ピューと吹く!ジャガー」や「王様はロバ」は7ページと少なくなっているのが特徴です。

これは毎週ユニークなネタを盛り込まなくてはならないという、ネタの絞り出しによる負担を考えてのことだと思いますが、やはりどれも共通しているのはネタが枯渇した時に極端につまらなくなるけど、ハマったときは猛烈に面白い、ということです。
ストーリー漫画なら、1つの大筋のストーリーがあれば毎週ネタをそこまで大きく消費しませんが、シュール系ギャグ漫画はネタが全てなので、切れた時はモロにクオリティに影響するのが見て取れるのが楽しみの一つかもしれません。

磯部磯兵衛物語とは

磯部磯兵衛物語はこれまで説明してきたように、週刊少年ジャンプの巻末固定で掲載されている漫画です。サブタイトルに「浮世はつらいよ」と入っているように、物語の時代背景は江戸時代で、浮世絵っぽいタッチが特徴です。

主人公の磯部磯兵衛はニートと公式で紹介されているように、グッダグダの青年で特に何の努力もしなければ、ほとんど才能もないダメ人間です。ただ実際には武士を目指して武士校に通っている学生なのでニートではありませんが。

その割に煩悩や欲が非常に強く、脳内のストーリーでは2年以内に大剣豪になって流派を作ってモテモテになるという妄想をしますが、いざ筋トレを始めたら腕立て伏せ3回位で諦めるくらいのダメっぷりです。

そんなどうしようもない磯部磯兵衛ですが、登場人物はほとんどもれなく、何かしら凄い才能はあるけれど欠陥のある人間ばかりで、当然のことながらまともな話は一度もでてきません。感動という言葉がこれほど遠い漫画も少ないでしょう。
唯一の常識人(?)は犬で、一人だけ論理的かつ常識に則って物事を考えられるのですが、人間たちはこぞってとんでもない行動をしていまうので、犬がツッコミ役という凄い漫画です。

この犬は徳川綱吉が発令した「生類憐れみの令」によって人間よりも偉くなった犬で、余りにも人間が犬にへりくだることから、犬は野生を失い、表情もなくしてしまったという設定です。
ただこれはこれで可愛いと評判になり、無駄に高い女性人気を獲得して、グッズ化までされています。わからないものですね。

こんな感じで、江戸時代に関する風評被害満点の漫画なのですが、これまでにない全く新しいシュールな漫画として人気を集めていますし、私はジャンプの中でも一二を争うくらいに好きな作品です。

TVアニメのように大々的に行われていませんが、FLASHアニメやウェブアニメ化はしており、メディア展開も着々と進んでいます。

しかもあろうことか2016年4月には大阪ABCホールで舞台劇まで行われる始末で、こんな漫画がそこまできたかと思うと、日本は大丈夫かと心配する一方で、まだ安泰だなとも思わせられる何とも言えない気分になります。

登場人物紹介

磯部磯兵衛物語の最大の魅力はなんといっても個性的すぎるキャラクターです。ほとんど全てのキャラクターがどこかおかしい所があり、それゆえ毎週のようにドタバタ劇が繰り広げられます。

磯部 磯兵衛

物語の主人公です。
立派な武士を目指して、武士校に通う青年だがこれと言った努力もしないし、運動神経も皆無かつ勉強も苦手とまるでいいところはない。

ただやたらと運と悪知恵だけはなく、単なる偶然で自称「江戸で5本の指に入る武士」である大八を倒してしまったり、徳川将軍たちに気に入られて大名になったりとやたらと出世している。

中島 襄

「磯野野球しようぜ」でおなじみのサザエさんの中島弘がモデルの眼鏡キャラクター。
本ばかり読んでいて、本に書いてないことは何もできないという典型的な立ち回りだが、知識だけはやたらあってここぞという時に活躍する。

いつも磯兵衛に悲惨な目に合わされているが、やたらと仲がいい。
大名編ではちゃっかり側近になっていて権力を手にした。

母上

武士校の先生と並んで物語最強の戦闘力を持つ地上最強の母。
空間や時空をあやつるなどジャンプのキャラクターでも屈指の戦闘能力を持つが、異常な親バカで磯兵衛のことを天才だと本気で信じて甘やかし続ける。

生類憐れみの令によって将軍扱いされ、「お犬様」と呼ばれていたが、それがバカバカしくなって表情を失った。
将軍家から脱走してきた時に磯兵衛と出会い、飼い犬となるが、実際に犬が磯兵衛を飼っているという方が正しい。

人間の言うことは理解できるが、「ワン」としか話せないので人間には伝わらず、唯一の常識人だが、人間たちには突っ込みが伝わらない悲しき犬。名前も「犬」。

高杉 秀才

モデルはドラえもんの出来杉英才。
出来杉は自分ができることを鼻にかけない完璧超人だが、高杉は意識高い系っぽくそれを嫌味ったらしく自慢するところが腹立つ。
当初はただのモブかと思ったが、何だかんだで物語によく関わってくる。

花岡 華男

モデルはちびまる子ちゃんの花輪和彦。
花輪くんとは違って金持ちでもないし御曹司でもないが、マセているところはどことなく似ている。
磯兵衛をバカにする武士校の悪ガキ的存在だったが、何だかんだで良い奴っぽい。

看板娘

ヒロイン的存在で、磯兵衛から気持ち悪いアプローチを受けまくるが、本当にそのまま気色悪がっている。
磯兵衛を「常連さん」と呼んでいるけど、ただの常連さんとしか思ってない。

徳川十五兄弟将軍

ネタを枯渇させないために、徳川将軍を同じ時代に登場させようとして無理やり兄弟にしてしまった。
一応設定は史実に基づいていて、顔も似せているので歴史に詳しい人ならちゃんと判別がつく。

今でこそ磯兵衛を目にかけているが、当初将軍とは知らずに横柄な態度を取った磯兵衛を処刑しようか相談した際に「処(しょ)す? 処す?」というセリフが登場し、ネット上で流行語となった。

宮本 武蔵

バガボンドのモデルになるなど、言わずと知れた大剣豪。
エロ本を買う時に五輪書でサンドイッチにすることで店員にバレないようにしていた磯兵衛のことが気になって取り憑いている。

なぜか取り憑いているうちに磯兵衛の味方になって、事あるごとに助太刀している。
大八と再戦した時も磯兵衛が寝てる間に宮本武蔵が操ったことで圧勝している。大八の自称「江戸で5本の指に入る武士」という自惚れに的確にツッコミを入れていた。

松尾 芭蕉

史実では日本史上最高の俳諧師とも呼ばれるすごい人。
全ての会話を5・7・5の川柳で行うので妙にリズミカルになる。ただしキレると突然普通の言葉でまくし立てるなど、何となくむかつくおっさん。

「古池や 蛙飛び込む 水の音」は磯兵衛の鼻毛が飛び出している事に気づいて水中の飛び込んだ時に編み出した。

磯部磯兵衛の魅力を紹介

このように登場人物はどれもぶっ飛んでいて、まともな話だったり、ほっこりする話、感動する話は何と一回たりともありません。基本的に一話完結ものなのですが、大体最後は突拍子もないオチが待っています。

そんな磯部磯兵衛ですが、なぜこれほど面白いストーリーになるのかいくつか検証してみました。

前後の脈絡が必要ない

通常のストーリー漫画ならば、物語のつながりには何らかの論理的な整合性が求められていて、一つ一つの出来事には理由が必要です。
しかし磯部磯兵衛のストーリーは何の脈絡もなく、そして理由なく色々な出来事が発生します。

普通の漫画ならそんな強引なことをしたら興ざめしてしまう所ですが、磯部磯兵衛ほどぶっ飛んでいる漫画なら「ま、いっか」と許せてしまう空気感があるがゆえなのでしょう。

そのためネタ切れしてしまっても、突然の新展開に持っていけて、そこでまた新しいネタを毎週出していくということが可能になっています。
おそらく他の漫画だとネタが切れたらどんどんクオリティが下がって泥沼にハマるのですが、磯部磯兵衛は割りと早期に脱出できているように感じられます。ただし本当に枯渇した時はやっぱりつまらないです。

存在自体が奇跡

もともと磯部磯兵衛は連載する予定ではなく、さらに読み切り枠が与えられていたわけではありませんでした。

ワンピースは最近不定期な救済が相次いでいますが、まだそれほど休載していない時期に、急遽休載が決まり、ページの穴埋めをするために白羽の矢が立ったのが磯部磯兵衛なのです。

しかもその時の内容がただ磯兵衛が母上から隠れて春画を読むというだけの内容だったのですが、これが予想外にウケて、その後いくつかの読み切りが掲載されます。

その読み切りの内容も、外に出かけたけど吹雪で寒すぎて何もできず、結局布団にもどってくるというだけの内容だったりと、本当に人気取る気あるのか?という酷いものでしたが、これまた好評を博します。

そして気づいたら連載が決定して、既に3年間も連載が続いて長期連載の様相すら呈しています。
正規の連載ルートを通らずに長期連載になったのはおそらく初めてのことで、こんな作品がジャンプで堂々と掲載されていることが奇跡なのです。

まとめ

ジャンプ作品はどこまで計算しているのかわかりませんが、それぞれの時代背景にあった作品が掲載されています。

例えば80年代~90年代にかけては「ろくでなしBLUES」や「BOY」といったハードボイルドな不良漫画がヒットしましたが、今の時代に同じような作品はそもそも連載すらされません。
磯部磯兵衛は00年台から一般化した「ニート」「働いたら負け」的なインターネットの文脈に則って生まれた作品で、一度はこんなグダグダな人生歩んでみたいなという人々の潜在的な意識を汲み取っているのだと考えています。

この先の社会がどのように変化していくのかはわかりませんが、不況を経て人々が希望を失いつつある時代だからこそひときわ輝く作品なのではないでしょうか。

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